Be it ever so bitter
(記者)なぜ、観客が見たくないつらい映像をあえて見せるのですか
(高畑勲)そういうことは現実ではしょっちゅうだからです。最近は、見る側の「こうなって欲しい」という願望をかき立てて、それを満たす映画ばかり。イタリアのネオリアリスム映画「自転車泥棒」のように、挫折した人生を描く作品も万人が見た方がいい。(・・・)そうすると人生も分かるし、自分自身もそれなりに強くなる。
12月9日朝日新聞夕刊
この記事を読んで、即座に「トト・ザ・ヒーロー」を思い出した。
そのときのメモには
「すっごく苦い話なのに、あのラストの秀逸さ。人間への深い愛に裏打ちされているから、
観ると複雑な感情に襲われるけれどなんだかじわっとした後味でわるくない。」
と書いてあった。
復讐心に燃える男のあわれな一生、とにかくそういう内容だったのだけど
ラストで、死んで骨粉になったトトの笑い声がぶわわーっと風にまきあがりながら
風景をめぐるシーンがずっと流れる。
(映画は門外漢なのでカット、とかコマ回し、という話はさておき)すばらしいのだ。
この映画は「この男のみじめさをごらん。復讐なんてつまんないでしょ?悲劇でしょ?」
と終わるようなものではない。
最後のトトの笑い声がすべてなのだと思う。
自虐的な笑いではなくて、聞いている方もうれしくなっちゃうような、
ものすごく晴れやかな笑い。
だから後味が、こんなに苦い映画だったはずなのにすっきりとしているのだろう。
なぜだか、<人生ってこういうものかもね!>という気分にひたれるのだ。
何度も言うけど、こんなにも苦い話なのに。
すべて終わったのちの、何はともあれ晴れやかな感じ。
これは新年を迎えるのとちょっと似ているかもしれない。
これぞ、「人生も分かるし、自分自身もそれなりに強くなる」映画なのではないかと。
万人におすすめできる映画でもないけど。
観て思わず幸せな気持ちになれちゃう「ヘイフラワーとキルトシュー」とか
「ビッグ・フィッシュ」なんかもすきだけど、後味をたくさん残してくれる映画もよい。